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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)1863号 判決

原告 和泉興産株式会社

右代表者代表取締役 内田俊男

右訴訟代理人弁護士 山田滋

被告 太平洋興発株式会社

右代表者代表取締役 藤森正男

右訴訟代理人弁護士 河野宗夫

同 服部成太

同 佐藤皓一

右河野訴訟復代理人弁護士 大久保建紀

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は原告に対し、金一一五〇万円及びこれに対する昭和四七年一二月二三日より支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

二  被告

主文同旨の判決。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、昭和四七年九月一三日、訴外日栄勧業株式会社(以下日栄勧業という)に対し、金一六〇〇万円を返済日同年一一月一二日の約で貸し付けた。

2  ところで、日栄勧業は、土地売買の仲介等を業とする会社であるが、被告の委託に基づき、被告を買主、訴外株式会社大観(以下大観という)を売主とする左記各土地売買の仲介をなした。

(一) 売買成立日時 同年八月一日

物件 別紙目録(一)記載の土地(以下日向地区の土地という)

代金額 金八億三八二五万円(坪当り金一万七五〇〇円)

(二) 売買成立日時 同日

物件 同目録(二)の土地(以下岩船地区の土地という)

代金額 金六億二四〇〇万五〇〇〇円(坪当り金一万二〇〇〇円)

なお、右(二)の売買については、大観の税務対策のため形式上売買予約が成立したものとする旨の合意がなされ、不動産売買予約契約書(甲第一号証)が作成された。

3  そして、同年八月一二日、日栄勧業と被告間で、右各売買に関する仲介手数料を、前記(一)の売買については金一五〇〇万円、前記(二)の売買については金一〇〇〇万円とする旨の合意がなされ、同日、被告は日栄勧業に対し、右金一五〇〇万円の内金として金一〇五〇万円及び右金一〇〇〇万円の内金として金三〇〇万円の計一三五〇万円を支払ったが、その後残金一一五〇万円の支払をしない。

4  ところで日栄勧業は原告に対し、弁済期に前記貸金の返済をしなかったので、原告は、同年一二月四日、東京地方裁判所に対し、前記貸金残債権金一五〇〇万円の債務名義に基づき、日栄勧業の被告に対する前記仲介手数料残債権金一一五〇万円につき差押命令を申請して、同命令を取得し(同命令正本は同月九日日栄勧業に、同月一一日被告に各送達)、更に同月一八日転付命令を申請して、同命令を取得し、同命令正本は、同月二二日第三債務者である被告に、翌二三日債務者である日栄勧業に各送達された。

5  よって、原告は被告に対し、被転付債権である前記仲介手数料債権金一一五〇万円とこれに対する右転付命令送達の翌日である同年一二月二三日より支払済みまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は不知。

2  同2の事実のうち、被告の委託を受けた日栄勧業の仲介により前記(一)の売買契約が成立したことのみ認め、その余は否認する。

右岩船地区の土地については、日向地区の土地につき前記(一)の売買契約が成立した際同時に売買予約が、更に同年一二月五日売買契約が各成立したが、日栄勧業は、右売買予約が本契約に移行するための協力業務の遂行を怠り、また、右の売買予約と売買契約の各内容は売却土地、総面積等重要点について別異のものであるから、日栄勧業の仲介行為と右岩船地区の売買契約の成立との間に因果関係は存在しない。従って、日栄勧業は被告に対し、右売買契約の成立につき仲介手数料を請求することができない。

3  同3の事実のうち、日栄勧業、被告間で日向地区の土地売買に関する仲介手数料を金一五〇〇万円、岩船地区の土地売買に関する仲介手数料を金一〇〇〇万円とする旨の合意がなされたこと、及び、被告が日栄勧業に対し、右金一五〇〇万円の内金として金一〇五〇万円、右金一〇〇〇万円の内金として金三〇〇万円の計金一三五〇万円を支払ったことのみ認め、その余は否認する。

日栄勧業及び被告は、右各仲介手数料のうちに、物件紹介料(一割)、仲介事務処理費用の前払金及び報酬の三つが含まれていることを暗黙裡に了解していた。そして、被告が支払った前記各仲介手数料のうちには、物件紹介料及び仲介事務処理費用の前払金が含まれていたところ、日栄勧業は、日向地区の土地売買契約及び岩船地区の土地売買予約の各締結に立ち会ったのみで、その後右売買契約の履行、右予約から本契約への移行等につき何ら仲介行為をなさなかったのであるから、日向地区につき金一五〇万円、岩船地区につき金一〇〇万円の各紹介手数料のみを被告に請求できるに過ぎない。従って、被告は日栄勧業に対し、日向地区につき金九〇〇万円、岩船地区につき金二〇〇万円の各過払をしていることになる。

4  同4の事実のうち、原告主張の転付命令が被告に送達されたことのみ認め、その余は不知。

右転付命令は、前叙のとおり被転付債権が不存在であるから無効である。

三  被告の抗弁

日向、岩船両地区の土地売買契約はいわゆる地揚げ契約と称し、地揚げ業者たる大観が多数の地主から広大な土地を逐次購入したうえ、開発業者たる被告に一括して売却することをその内容とするものであり、右各売買の仲介に対する前記報酬支払の約定は、日栄勧業の仲介のもとに、大観が被告に対し同年一二月二〇日までに当該売買の対象となった土地全体につき所有権移転仮登記(農地について)もしくは同本登記(農地以外の土地について)をなし、もって被告の宅地造成事業を可能ならしめることを停止条件としたものである。

しかるに、日栄勧業は、右地揚げ協力業務の遂行を怠っていたところ、同年一一月頃倒産し、右約定期限までに右条件が成就しなかった。従って、日栄勧業は被告に対し前記報酬を請求することができない。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は争う。

被告主張のとおり地揚げ契約という特別な契約が存在するとしても、これは大観と日向、岩船両地区の土地所有者との間に締結されたものであり、被告と大観との間に締結されたものではない。日栄勧業は、被告、大観間に前記(一)、(二)の各売買契約が成立したことにより、被告に対し前記各仲介手数料を請求できることが明らかである。

第三証拠≪省略≫

理由

一  ≪証拠省略≫によると、原告が日栄勧業に対しその主張のような貸金債権を有すること、並びに右に基づき原告から日栄勧業に対し原告主張のような債権差押および転付の措置が為されたことが認められる(このうち転付命令が被告に送達されたことは争いがない)。

二  そこで右の被転付債権たる日栄勧業の被告に対する仲介手数料債権の存否につき検討する。

被告が日栄勧業に対し、被告が大観から日向、岩船両地区の各土地を買い受けるにつき仲介を委託し、右日栄勧業の仲介により、同年八月一日被告が大観から日向地区の土地を代金八億三八二五万円(坪当り金一万七五〇〇円)で買い受ける旨の売買契約が成立したこと、同月一二日、日栄勧業、被告間で、右各土地の売買の仲介に対する手数料額を日向地区につき金一五〇〇万円、岩船地区につき金一〇〇〇万円とする旨の合意がなされ、被告が日栄勧業に対し、右金一五〇〇万円の内金として金一〇五〇万円、右金一〇〇〇万円の内金として金三〇〇万円の計金一三五〇万円を支払ったこと、以上の各事実は当事者間に争いがない。

右の争いのない各事実と、≪証拠省略≫を総合すると次の各事実が認められ、他に左の認定を覆えすに足りる証拠はない。

(一)  日栄勧業は不動産売買の仲介等を業とする会社であるところ、同会社の仲介により、開発業者(宅地造成販売業者)たる被告と地揚げ業者(多数の地主から広大な土地を逐次購入し、これを開発業者に一括して売却する業者)たる大観との間に、昭和四七年八月一日、日向地区の土地につき前記売買契約が成立した。右売買契約によると、大観は、右土地を約六〇名の所有者から買い受けたうえ、これを被告に売り渡し、代金受領と引換えに土地引渡と所有権移転登記(農地については同仮登記)をなす義務があり、同年八月三〇日までに全体の七〇パーセント、同年一二月二〇日までに全体の三〇パーセントの履行をなすことになっていた。

(二)  右売買契約が締結された際、日栄勧業の仲介により、岩船地区の土地について大観、被告間に、同日付で売買予約が締結された。当時、右土地全体の約七〇パーセントの土地につき既に地主、大観間に売買契約が成立し、大観に所有権移転登記がなされていたが、造成協力地(宅地造成工事完了後、元の地主に返還する土地)の範囲、条件等が未確定であったので、右土地の売買については予約にとどめる旨の合意がなされ、売買物件目録の添付のない不動産売買予約契約書が作成された。右予約によると、大観及び被告は同年一二月五日までに本契約を締結し、大観は同日から同月二〇日までの間に代金受領と引換えに土地引渡と所有権移転登記をなすことになっていた。

(三)  右売買契約及び売買予約が締結された際、被告は大観に対し、土地買収資金として五億五〇〇〇万円を貸し付け、大観は被告に対し、右債権担保のため、岩船地区の土地のうち大観名義に所有権移転登記がなされていた土地につき抵当権を設定した。

(四)  被告、日栄勧業間に上記仲介契約が締結された際、仲介行為の内容、手数料等について明示の合意がなされなかったが、同年八月一二日、両者間で手数料額を前叙のとおり日向地区につき金一五〇〇万円、岩船地区につき金一〇〇〇万円とする旨の合意がなされた。そして、日栄勧業が資金難を理由に右手数料の一部前払を懇願したため、被告は日栄勧業に対し、右金一五〇〇万円の内金として金一〇五〇万円(額面金四五〇万円の小切手及び額面金六〇〇万円、支払期日同年九月三〇日の約束手形)、右金一〇〇〇万円の内金として金三〇〇万円の計金一三五〇万円を支払った。

(五)  日栄勧業は、同会社の専務取締役である訴外高倉秀行に前記仲介業務を担当させていたところ、高倉は、前記売買契約及び売買予約の各締結並びに前記仲介手数料の授受に立ち会った後、同会社の社員を一時被告会社に派遣したほか、前記売買契約の履行及び前記売買予約の本契約への移行等につき全く仲介行為をなさず、右社員もまた、右事項につき実質的に何ら仲介行為をしなかった。

(六)  ところで、日向地区の土地については、同年一〇月一八日に至り漸く全体の約六〇パーセントの土地(一区画にまとまっておらず、各所に点在)につき被告名義に所有権移転登記ないし仮登記がなされ、昭和四九年夏頃残余の土地につき右登記が経由された。そして、大観の要請により、右土地の売買代金総額は約金一〇億円に変更された。

(七)  他方、岩船地区の土地については、昭和四七年一二月五日、被告、大観間で売買の本契約が成立した。しかし、前記売買予約と比べ、売買土地の総面積が約二割減少し、売買代金額が坪単価で二割増額されたほか、新たに、被告が右土地の約一割に相当する部分の土地を宅地造成後大観又は大観の指定する者に優先的に売り渡す旨の合意がなされた。その後、被告は、右特約を解消させるため約八〇〇〇万円の出捐を余儀なくされた。

以上の各事実が認められる。

三  以上認定の事実関係に基づき、まず岩船地区に関する報酬請求権について判断する。

1  原告は、「岩船地区の土地につき前記不動産売買予約契約書が作成されたのは、大観の税務対策のためであり、大観、被告間に日向地区の土地につき売買契約が成立した際、同時に岩船地区の土地についても売買の本契約が成立した。」旨主張する。しかしながら、これを認めるに足りる的確な証拠はない。却って、前認定のとおり、昭和四七年八月一日当時、岩船地区の土地につき造成協力地の範囲、条件等が未確定であり、右契約書には売買物件が具体的に記載されていないこと、同日大観が被告に対し、被告から借り受けた土地買収資金の債権担保のため、右土地につき抵当権を設定したこと等の各事実に照らすと、同日、被告、大観間に右土地につき売買予約が締結されたものと認めるのが相当である。

2  そして、前認定のとおり、被告、大観間で、岩船地区の土地につき、前記売買予約上の約定期限の最終日である昭和四七年一二月五日に前記本契約が締結されたが、日栄勧業は、右予約の締結を仲介したに過ぎず、右予約から右本契約への移行につき何ら仲介行為をなしておらず、右本契約は被告と大観との間で直接締結されたものであり、更に、右本契約の内容が前記のとおり右予約の内容に比べて相当被告に不利なものに変更されたことに鑑みると、日栄勧業の前記仲介行為と右本契約の成立との間には因果関係がないものといわざるを得ず、他に右因果関係の存在を認めるに足りる証拠はない。

3  ところで、不動産売買の仲介につき報酬を支払う旨の合意が当事者間でなされている場合、右報酬債権が発生するためには、特段の事情のない限り、仲介人の仲介行為により、当該不動産の売買契約が成立し且つその履行がなされて取引の目的が実際に達成されたことを要するものというべく、少なくとも売買契約の成立することは最少の要件を成すものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、岩船地区の土地に関しては、前述のとおり、日栄勧業は、前記売買予約の締結につき仲介をなしたに過ぎず、また、右仲介と右土地に関する前記売買本契約の成立との間に因果関係がないのであるから、右地区に関する前記仲介手数料債権は発生していないものといわなければならない。

4  なお、被告が日栄勧業に対し、売買物件紹介料もしくは売買予約の締結の仲介に対する報酬として右に応じた仲介手数料の一部を支払う旨黙示的に約束していたとしても、両者間の全仲介手数料額、右土地の売買予約の締結につき日栄勧業がなした仲介行為の内容、右売買予約の内容、殊に代金額等諸般の事情を斟酌すると、右仲介行為に対する割合的手数料額は、日栄勧業が本件仲介手数料の内金として既に被告から受領済みの金三〇〇万円を超えないことが明らかである。

従って、右地区に関する前記仲介手数料の残債権も発生していない。

四  そこで次に、日向地区の土地に関して判断するに、同地区の土地については、日栄勧業の仲介により売買契約が成立したことは前認定のとおりであるが、被告は、「右地区に関する仲介手数料支払の約定については、前掲抗弁欄記載の停止条件が付されていたところ、右条件が約定期限内に成就しなかった。」旨主張するので、次に右抗弁について判断する。

1  思うに、宅地造成販売を業とする開発業者が、いわゆる地揚げ業者から、第三者である多数の地主所有の宅地造成用地を買い受けるにつき、不動産売買仲介業者が開発業者からその仲介の委託を受け、両者間において報酬支払の合意がなされたが、仲介行為の具体的内容について何ら合意がなされなかった場合には、右売買の対象物件が多数の第三者が所有する広大な土地であり、しかも宅地造成用地であることに徴し、通常の不動産売買の仲介の場合に比し、一方において不動産仲介業者は、その報酬の全額を請求し得るためには、売買契約成立後においても、売買契約の全部が支障なく履行され、開発業者が宅地造成なるその契約目的を達することができるように一層配慮すべく、右報酬支払の約定につき、特段の事情のない限り、所有権移転登記手続ないし目的物件の引渡等売買契約の主たる内容の履行が全部完了することを停止条件とする旨の合意が当事者間で黙示的になされているものと解するのが相当である(但し、叙上地揚げ契約の特質、就中その全部履行完了の困難性長期性等に照らすと、売買契約が一部履行されただけである場合においても、開発業者が履行済みの当該土地を利用して宅地造成事業の一部を遂行することが可能なときは、信義則に照らし、通常の不動産取引の仲介の場合と異なり、たとえ当事者間に履行部分に応じた一部報酬支払の特約がなくとも民法六四八条三項を類推適用して、仲介業者は、既になした履行の割合に応じたいわゆる割合的報酬を請求することもできるものと解すべきである。)。

2  そこでこの見地に立って本件をみるに、前認定のとおり、日栄勧業、被告間において、日向地区の土地売買に関する仲介行為の具体的内容については何ら合意がなされていなかったところ、被告は日栄勧業に対し、昭和四七年八月一二日、右地区に対する仲介手数料の内金としてその七割に相当する金一〇五〇万円を支払っているが、これは専ら当時資金難であった日栄勧業からの要請に基づくものであること、右金一〇五〇万円の内金六〇〇万円は支払期日同年九月三〇日の約束手形で支払われていることを合わせ考えると、右金一〇五〇万円の支払は右仲介手数料の前払と解することもできるし、また、右地区に関する仲介手数料額は、右売買の代金総額の約一・七五パーセントに相当し、通常の不動産売買仲介手数料額(昭和四五年建設省告示一五五二号参照)と比較して特に低額であるともいえないから、以上によれば、右の仲介手数料の一部支払の事実及び仲介手数料の額をもって、日栄勧業と被告間に、売買の成立のみによって手数料全額の債権が直ちに発生するとの合意ありとみることはできない。

そして、他に特別の事情の認められない本件においては、日向地区の土地に関する前記売買契約が締結された目的及びその内容、殊に目的物件の規模、当時の所有者、並びに仲介人の地位、約定仲介手数料額等に照らし、右売買の仲介に対する前記報酬支払の約定につき、右売買契約の主たる内容の履行が完了すること、換言すると、大観が被告に対し昭和四七年一二月二〇日までに右地区の土地全体につき被告名義に所有権移転登記(農地については仮登記)をなすことを停止条件とする旨の合意が、被告と日栄勧業間で黙示的になされていたものとみるのが、当事者の意思の合理的解釈として相当である。

3  しかるところ、日栄勧業の仲介のもとに、右約定期限までに右条件が成就したことを認めるに足りる証拠は全く存在せず、却って、前認定の各事実によると、日栄勧業は、日向地区の土地に関する売買契約が成立した後、右契約の履行につき何ら仲介行為をなさず、昭和四七年一一月頃倒産するに至ったものであり、また、右土地に関する前記登記手続は、同年一〇月一八日に漸く全体の約六〇パーセントの土地についてなされたが、右登記手続が完了した土地は各所に点在していたため、被告は、右土地につき直ちに宅地造成事業に着手することができず、右土地全体について前記登記手続が完了したのは翌々年の昭和四九年夏頃であり、しかも、売買代金総額は金一〇億円に変更された等の事実を認め得るのである。

そうだとすると、日向地区に関する前記仲介手数料債権も発生していないものといわなければならない。

4  なお、被告が日栄勧業に対し、売買物件紹介料、もしくは売買契約締結のみの仲介に対する報酬として、これに応じた仲介料の一部を支払う旨黙示的に約束していたとしても、両者間の全仲介手数料額、右土地の売買契約の締結につき日栄勧業がなした仲介行為の内容、右売買契約の内容、殊に代金額等諸般の事情を斟酌すると、右紹介ないし仲介行為に対応する手数料額は、日栄勧業が本件仲介手数料の内金として既に被告から受領済みの金一〇五〇万円を超えないことが明らかである。

従って、右地区に関する前記仲介手数料の残債権も発生していない。

五  叙上の次第であり本件仲介手数料残債権計金一一五〇万円は発生していないから、前記転付命令は、被転付債権が不存在であり、無効であることに帰着する。よって原告の請求は理由がないから失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷卓男 裁判官 飯田敏彦 裁判官榎下義康は職務代行を解かれたため署名押印することができない。裁判長裁判官 小谷卓男)

〈以下省略〉

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